だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
中途半端...チュウトハンパ
「お疲れ」
会社の下のベンチに座っていると、大きな影が後ろから近づいてくる気配がした。
振り返ると少し疲れたような顔をした森川がいた。
随分詰め込んで仕事をしたのが伺えるから、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「お疲れ様。プレゼン資料、上手くまとまった?」
森川は私を見て、ふっと笑った。
その顔に翳りはないので、少しほっとした顔をしてみせる。
本当は鞄の中にデータを詰め込んで、今夜徹夜同然で仕事をすることがわかっていたけれど。
そんな簡単に弱い部分を見せてくれない同期に免じて、気付かないフリをした。
「行くか」
「そうだね。行こうか」
どこへとも何も言わないけれど、そんなのいつものことなので特別気にならない。
他愛ない会話をしながら、いつも二人で行く居酒屋さんに向かう。
昔ながらの店構えで、十九時を過ぎると仕事帰りのサラリーマンで溢れている。
値段が手頃で美味しい地鶏の焼き鳥を出してくれるところが、とても気に入っている。
今日は木曜日だしそこまで混んでいないだろうな、と考えながらお店のドアを開けた。
私と森川は決まってカウンターに座る。
少し離れたところでもいいのだけれど、目の前で簡単に注文できるところが楽でついつい座ってしまうのだ。