だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「時雨、ビール?」
「ビール!森川もビール?」
静かに頷いたのを見て注文しようとすると、カウンターの向こうからキンキンに冷えたビールを差し出される。
先読みされていたみたいだ。
「ありがとうございます」
律儀に答えるのはいつも森川の方が早い。
ふたつのジョッキを受け取って、ひとつを私の前に置いてくれる。
その間に私はお通しを受け取り、二人の前にそれぞれ並べる。
「お疲れ様」
小さく笑ってグラスを持ち上げる森川に私も、お疲れ、と言ってがしゃりとグラスをあわせる。
冷えたビールが喉を通り過ぎ、胃までの形をくっきと浮き彫りにするように滑らかに通っていく。
二人で焼き鳥を沢山食べた。
お腹が空いていたのでおにぎりも頼んだし、おつまみになるような海鮮の焼き物や漬物も頼んだ。
美味しい料理にビールも進む。
いつもは二杯目からはビールをやめて焼酎の水割りに移行するはずなのに、美味しくビールを飲み続けていられた。
森川とはほとんど仕事の話ばかりしていた。
今森川が抱えている仕事は、第一と一緒に行う仕事がほとんどだ。
今回のクリエイターはとても頭の回転が速く、どんどん新しいアイデアが湧き出てくるのがすごい、と興奮気味だ。
外注のコピーライターも『当たり』で、若い女性の人らしい。
女性ならではの斬新な切り口でコピーが出てくるので、驚くことの連続なのだそうだ。