だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版





「お前仕事楽しくないの?」




二つのグラスに水割りを作っていると、不意に隣から問いかけられた。

責めるわけでも、問い詰めるわけでもなく、純粋な疑問という響きを携えて。

作った水割りを手渡して、自分のグラスからお酒を一口飲み込む。



ちょっと濃くなったけれど、まぁいいか。



このタイミングで聞いてくる辺りが、櫻井さんに感化されてるな、と感じるところだ。

二人とも、答えなくてもいいよ、というフリをして。

実際は、話すまでこの話は終わらない、という圧力をかけてくるんだから。


少しだけ息を吐いて、片方のグラスを森川に渡した。




「楽しくないわけじゃないよ。ただ、自分が本当に必要なのかな、って。わからなくなるだけ」




じっと私の方を見ている気配がするけれど、目が合ったら上手く話せなくなってしまいそうなので手元のグラスを見つめていた。




「与えられた仕事をこなすことくらいしか出来ないじゃない?水鳥さんのように頭の回転が速いわけでも、櫻井さんのように何でも出来るわけじゃない。森川のように努力家でもないしね」


「俺は別に努力家なわけじゃない」


「そうであっても、仕事に対する熱意がある。私の仕事は、私じゃなくても上手く回るんだろうなって思うの。それって、仕事をする上で『きちんと休める』って事だと思う。でも逆に言えば、会社の骨組みではないんだよ、って言われてるように思うの」




横からごくりと喉が鳴る音がした。

美味しそうにお酒を飲む音だ、と思った。




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