だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
『大事な骨組み』。
森川の言葉が胸に刺さる。
そうか、そうやって必要とされたかったのかもしれない。
自分を晒け出すことを怖がって、表面だけ取り繕っていたのに。
そんな自分を作ったのは自分なのに、気付いてもらえない、と嘆いていたのかもしれない。
本当は、こうやって背中を押して欲しかったのかもしれない。
なんだか納得したように、ストンと胸に言葉が届いてきた。
森川が同期で、よかった、と思う。
「時雨がいるから、チームはいつも楽しそうじゃないか」
それって・・・。
いじられてるのが面白いです、って言ってるのと同じだと思うんだけど・・・。
森川らしい的外れな励ましは、私の心を軽くした。
思わず笑った私を見て、隣で満足そうに頷いた。
「さ、じゃあそろそろ帰ろうか。プレゼン資料作らないといけないでしょ」
意地悪く森川の顔を見ると、バツの悪そうな顔をしていた。
プレゼン資料を一時間で作れるほど器用な性格じゃないのは、三年も仕事を見ていればわかることだ。
「気付いてたのか。お前、水鳥さんに似てきたな。勘付き過ぎだぞ」
それはこれ以上ない褒め言葉だと思った。
水鳥さんに似ているなんて、そんな嬉しいことはない。
時間はもう二十三時を過ぎていた。
今からプレゼン資料を作るとなれば、それこそ明け方まで仕事をすることになる。
森川がほんの少しでもいいから寝られればいいな、と思う。
「しっかりやるさ、大事なプレゼンだしな」
「うん。無理はしないでね」
「あぁ」
そう言って森川は伝票を持って立ち上がった。
それに続いて私も出口に向かう。
ドアの外からは雨の気配がしていた。