だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
翠雨
日常...ニチジョウ
天気がいい。
今日は雲がひとつもない。
全力疾走しているのに、そんな余裕があるなんて。
私はやっぱり。
どこか現実味を持たずにいるのかもしれない。
横目に過ぎていくいつもの景色。
それも角度を変えれば、いくらでも違うものに見える。
例えば、知らない街に迷い込んだかのように。
実際はいつもと同じ道を、いつもと同じように通り過ぎるのだけれど。
駅からの道のりは思ったよりも短い。
走っていると過ぎていく景色は本当にあっけない。
私はあまりゴミゴミとしたところに住むのが嫌いなので、静かな住宅街に住んでいる。
四階建て新築マンション。
オートロックで二十四時間の警備体制。
そんなに厳重に警備をしてもらう必要もあまりないと思うが、安心ではある。
駅までの景色には一軒家が多い。
車庫つきの一軒家。
マンションを出て、例えば一軒家に住む時がきたらどんな生活をするのかな、なんて想像する。
静かな幸せの想像。
仕事をしない生活の想像。
有り得ない。
悠長な想像は私をさらに走らせる。
時間ギリギリだけれど、なんとか地下鉄の時間に間に合わせるために。
私にはこんな風に仕事を求めることしか出来ないな、と頭の片隅で想いながら。