だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
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最寄り駅に着いたとき、雨は止んでいた。
地下鉄に十分しか乗っていなかったのに、天気はこんなにも簡単に変わってしまう。
傘を畳んで駅からの帰り道を歩く。
ふと鞄の中の携帯電話が震えて、メールが二通届いた。
一通は森川から。
律儀だなぁ。
もう一通は・・・
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南水鳥:
題名:どうだった?
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今日は森川君とデートだったんですって?
櫻井君はべろべろに潰れています(笑)
タクシーで無事に帰れるかどうか。
明日、からかってあげるといいわ。
おやすみなさい。
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思わずニヤけてしまった。
べろべろに潰れた櫻井さんを想像して、さぞ五月蝿かったのだろうな、と思う。
水鳥さんはお酒がとても強いので、櫻井さんが敵う筈もない。
まぁ、水鳥さんが潰した様なものだろうけれど。
お酒は逃げ道かもしれないけれど、少なからず心を軽くしてくれる気がした。
明日は、多分二日酔いになっている櫻井さんを怒って、眠そうにしているだろう森川を叩き起こそう。
給湯室のチョコを水鳥さんとこっそり食べよう。
今日の夜は大切な想い出を抱き締めて、少しだけ泣いてしまうかもしれない。
家に着くまでの間、雲の隙間から覗いた月の光を見つめながら、少し濡れたアスファルトを踏みしめていた。
濡れたアスファルトは、きらきらとまばらに光を反射する。
その光は、
どこかおぼろげで、
どこか頼りない。
地に足が着いていない感覚が襲う。
お酒が入っているせいかもしれない。
今はここにない背中を想って、とても切なくなった。
夏の足音が聞こえそうな夜だった。