だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
森川と飲みに行った次の日、案の定櫻井さんは二日酔いで顔色が悪かった。
どのくらい呑んだのかは想像もしたくなかった。
きっと物凄い量だったに違いない。
けれど、その顔色の悪さに気付いたのは私だけのようだった。
ポーカーフェイスが上手い櫻井さんは、そんな表情を表面に出すような人ではないからだ。
水鳥さんの事前情報と、一番近くでアシスタントをしてきた私にしかわかるはずもなかった。
一緒に呑んでいたはずの水鳥さんはけろりとした顔をしていて、我関せず、といった感じだった。
昨日呑んでいたなんて、想像も出来ない爽やかな表情で仕事に取りかかっていた。
朝から二人で打ち合わせをする予定だったので、ちょっと広いけれどいつものミーティングルームを押さえた。
ガラス張りの陽射しの差し込む明るい空間。
少し早かったけれど、朝礼終了後すぐにミーティングルームに向かった。
きっと二日酔いで辛いはずなのに、頭の中は仕事の事をフル回転で考えているのはさすがだった。
後ろ姿だけなら、いつもとほとんど変わらない。
正面の表情は見た感じ普段通りで、ほんの少し青ざめていた。
ミーティングルームに入ると陽射しが明るく降り注いでいた。
窓の方のブラインドはそのままに、ドアと壁側のブラインドを降ろす。
部屋の中が見えないようにするために。