だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「しかも、昨日は水鳥さんとデートだったんですよね?」
俯いていた顔ががばりと私の方を向く。
大きく目を見開いてかなり驚いているみたいだ。
何で知っているのか、と問いかけそうな目で私の方を見ている。
わざとらしくぷいっと目線を外して部屋を出て行こうとする。
がたっと、後ろから櫻井さんが立ち上がる気配がした。
別にそんなに慌てることでもないと思うのに。
水鳥さんと櫻井さんが飲みに行くなんて、至極当然のような気がしていた。
管理職という立場で、二人だけが感じることだってあると思うから。
「昨日は尾上部長も一緒だった。だから別にデートってわけじゃない」
あぁ、だからか。
それでいつもより顔色が悪い原因が分かった気がした。
部長と三人だったなら、部長もグルになって潰したに決まっている。
三人の関係は、水鳥さんが櫻井さんをからかってそれに部長が便乗する、ってところだろう。
想像しようとしたけれど、いつもと違う声に思わず振り向いてしまった。
少し冷たさを含んだ、低い声。
どこかで聞いたことのある、その冷たい声。
感情を滲ませて。
言葉にして伝える方が、私の脳には届くのに。
脳ではなく、心に直接響かせる声。
私、知っている。