だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
振り向くと櫻井さんは私のすぐ近くにいた。
思ったよりも距離が近いことに、びくりとしてしまう。
狭いミーティングルームの中では、あっという間に目の前に近づけてしまう。
櫻井さんは、私に近づきすぎない距離で私を見つめていた。
ギリギリのところで私を見ている。
その目線に意味が有ることを、本当は薄々気付いている。
それを感じてしまっているからこそ、どうしていいかわからなくなってしまう。
櫻井さんが私のことをかまうのは、きっと後輩だから、というだけではないだろう。
本当のところは、目の前のこの人しか答えを知らないのだけれど。
ガードは堅いけれど、女性関係はそれなりに派手であろう人。
それなのに誰からも嫌われず、むしろ『イイ男度』が増していく人。
意識しているわけではない。
けれど、時折見せる優しさが他の人に向けられていないことくらいすぐに気が付いた。
社内での私との距離感。
社外での私との距離感。
両方とも上手く間隔を保っていてくれている。
それが、私に対する優しさだということも知っている。
見つめられる目に意味があると思うと、息が止まりそうだった。
だから、気付かないフリをしてその優しさに甘える狡さを覚えた。
そんなもの、覚えたかったわけではない。
でも、自分を守ることの方が大切だった。
最低な選択をした自分を正当化する理由は見つかるはずもなかった。
ま、本当に何も考えていない時もあると思うのだけれど。