だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
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櫻井さんを残してミーティングルームを出ると、社長と秘書室のメンバーが歩いてきた。
廊下の端で少し立ち止まってお疲れ様です、と声をかける。
強い視線を感じたが、誰からのものかわかっているので顔を上げずにいた。
ヒールの音が遠ざかっていくのを聞いて給湯室へ向かう。
きっとこの後、視線を投げかけた人も給湯室にくるだろうな。
そんなことを思いながら足を進めた。
チームのみんなへ、お詫びのコーヒーを入れるために。
マグカップにコーヒーを用意していると、ピンヒールの響く音が聞こえてきた。
この人の足音は自己主張が強い、と思う。
「ミーティングルーム、誰かいるの?」
「お疲れ様です。今、櫻井さんが打ち合わせをしています。」
入ってくるなり、挨拶もなしに質問をなげかけられる。
手元から目を離してその人物へ目線を向ける。
顔の横で揃えられた前下がりボブの髪。
少しキツめな、でも綺麗な顔を見ながら答えた。
杉本亜季
(スギモトアキ)。
秘書室主任。
櫻井さんと同期の彼女は秘書室の有能なリーダーだ。
仕事が出来るという点では水鳥さんと同類だが、キツめな性格が少し人を寄せ付けない雰囲気を持っている。
タイトなスカートスーツは、いかにも『仕事が出来ます』という感じで、彼女の体に馴染んでいる。