だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版
「紅雨を知ってる?」
隣でこちらを向く気配がしたので、そっと顔を向ける。
知らない、と首を横に振る私に湊はそっと教えてくれた。
「コウウ。薄い紅色の雨の事。花粉や黄砂などを含んで色が着いたようになるんだ」
薄紅色の雨は綺麗だと思うけれど、それが花粉や砂だと思うと少し嫌だ。
見るのはいいけれど、体に当たるのは可能な限り避けたいと思った。
色々考えていると、それが顔に出ていたのか、湊は楽しそうに私を見ていた。
考えていることを覗かれたようど、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「そんなに笑わないでよ」
「ごめんごめん。あまりにも嫌そうな顔をしているから。つい、ね」
「だって、そんなのヤだよ。なんだか、綺麗じゃないもの」
「確かにね。でもその他にも、花に降る雨の事でもあるんだ。静かに花を濡らす、雨の風景。」
静かな雨の風景。
きっと湊はその景色が好きなんだろうな、と思った。
一緒に見たいけれど、今日は雨が降らない気がする。
雨が降るたびに、湊は一緒に散歩をしてくれる。
今日も雨の気配がしたから、私を連れ出してくれたのかもしれない。
雨を感じる湊の感覚は、ほとんど外れたことがない。
雨を待つなんて不思議な気がするけれど、私はいつも待っていた。
雨の気配を。