蒼夏の刹那
約束の時間前に家を出てしまったけど、そんな事も気にならない。



ただ待てばいいだけの事。



久しぶりに町並みをゆっくり見回す。



小さな公園、本屋、花屋、道端の草花――あまり普段気に止めないものでさえも、新鮮に感じる。



「……蒼とよく歩いたなあ。そういえば、よく道端の草花にも夢中になってたっけ」



蒼が花を見る時はいつも楽しそうで、とても優しい眼差しで――



改めて気づかされるのは、蒼とのたくさん思い出。



「いっぱい、いっぱいあったんだ……一緒にいた時間じゃないよね、だって、こんなにも思い出せる事がたくさんあるんだもん……」



蒼との思い出を思い出す度、私は心から幸せだって思える。



大切な人の死は、この世界からいなくなってからもずっと――たくさんのものを与えてくれる、ずっと。



そう気づいた時、本当に幸せなんだってそう思えた。



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