彼女
その夜、オレの携帯が鳴った。
「はい。」
「あの…私…さっき傘…貸していただいた…。」
やさしい静かな声。
彼女だ。
彼女が喋り終わらないうちに
「あ、オレです。」
彼女は少し笑ってから
「さっきはありがとう。あの後すごく降ってきたから助かったの。ホントありがとね。」
「いやぁ役に立ってよかったですよぉ。」
「随分濡れたでしょ。」
「まぁ…濡れたけど…平気です。…走って帰ったし!!」
「あぁ、そうだよねぇ!!!私があのまま歩いてたら…もっと濡れてたかも!!」
「あっっ!!!そういう意味じゃなくて…」
どういう意味だよ!オレっ!
「あっはっはっ…。気にしないで。
ホントに。
私みたいなおばさんは走っても…歩いてると同じ速さだったりするから。」
「え、そんな事ないっすよ!!まだまだイケますよ!!!
若く見えますよっ…っていくつか知らないけど…。…その前に名前も知らないし…。」
「名前…あ…そうだね。お互い名前も知らないね。」