翼~開け放たれたドア~
しっかりと握られた手からは冷たいけれど確かな体温が伝わってくるから、安心する。

なんだかこいつは、この腕に閉じこめてもスルリと抜け出して、どっかいっちまいそうで…。

「…春輝……」

ギュッと手を握りしめる。

「お前は何を抱えてんだよ…?」

俺の問いかけの声は、眠る春輝には届かない。

「……でも、お前が何を抱えててもいい」

だから、

「どこにも、行くんじゃねぇ」

お前だけは、どこにも。





「んん…」

春輝のくぐもった声にハッとして顔をあげる。

春輝の顔を見れば、口がかすかに動いていて、何かをしゃべっているようだった。

何を言ってるんだ?

俺は気になって春輝の顔に顔を近づける。

「……か…、さ……」

──は?お前…

「…お、かぁさ………」

──“お母さん”を呼んでいるのか?

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