翼~開け放たれたドア~
「春輝はな、偽名を使わざるをえなかったというか、あいつは篠原でもあり、赤城でもある、と言ったほうが正しいな。
篠原は、春輝の母親の姓だ」

母親…。

“…お、かぁさ………”

寝言で親を呼んだ春輝のことを思い出す。

こぼれた涙。なのに穏やかだった表情。

俺の胸がズキンと痛んだ。

「それに、だ。
春輝は記憶の一部がなかった」

は?記憶が…なかった?

「たぶんだが、お前との出来事で思い出したんだろうな」

雷さんはジッと俺を見た。

俺が…、春輝を……。



「春輝が忘れていた記憶ってのは親のことだ。
あいつにとって母親は誰よりも大切な人なんだと思う。
なんで忘れちまったのかはわかんねぇけど。
んで、父親のことは憎いんじゃねぇかな。
なんせ、春輝と春輝の母親を裏切ったんだからな」

裏切った?

俺らの顔つきがけわしくなる。



< 268 / 535 >

この作品をシェア

pagetop