翼~開け放たれたドア~
地下牢の奥。

そこに、両手を錆びた手錠で縛られた男が壁に寄りかかるようにして座っていた。

髪の長さも、恰好も、背も違うように見えた。

だけど、その男は──

“──兄貴ぃっ!!”

紛れもなく、俺の大事な兄貴だったんだ。

見間違うはずがなかった。

“おいっ!兄貴!”

柵に手をかけて必死に呼びかけたけど、兄貴は俯いて目を閉じたまんまで。

脳裏に最悪な場合のことが浮かんできて、でも俺はそれを信じたくなくて。

なのに、何度呼んでも応えてくれなくて。

“兄貴…頼むから……、目ぇ開けろよ…!”

柵をガシャンと揺らしてから、俺はズルズルと膝をついた。

涙が一粒地面にこぼれて砕け散った、そのときだった。

“…ら、い……っ?”

あれほど聞きたかった兄貴の声が、小さくてか細かったけど確かに伝わった。
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