翼~開け放たれたドア~

涙と甘え

~空夜 side~

──シーン…

そんな音がしそうなほど、倉庫は静まり返っていた。

そんな異様な光景になるほど、いつの間にかあいつは俺たちにとって、いて当たり前の存在になってたんだ。

下っ端や、あの飛鳥でさえも、あまり話そうとしねぇ。

“空夜”

あの透き通るような綺麗な声が聞きたい。

たった1日会えないだけでこんなにも…。

「春輝ってさ、数ヶ月間しかここにいなかったのに、いつの間にか俺たちに馴染んでたんだねー」

飛鳥が突然、不自然なほど明るく話し出す。

「俺と蓮がアイスのことでもめたときとかー。
あの秋人が春輝と普通にしゃべってたりー。
蓮だって、女とかめんどくさいとか言ってたのに何も言わないしさー」

…あぁ。そうだよ。

あいつはこんなにも俺たちの心(なか)に入り込んでいるんだ。

もう、後戻りなんてできないくらいに。

この中の誰もがそう思ってるに違いねぇんだ。

俺だって…。

この腕のなかにあいつがいない。

それだけでこんなにも胸が締めつけられんだ。
< 343 / 535 >

この作品をシェア

pagetop