翼~開け放たれたドア~
…伝言、ね。

訝しげな私に、なんの了承もなく男はポツリと言った。

「前日、です」

…あぁ、そうか。

この男が言う“前日”がなんなのか、私はわかった。わかってしまった。

だから私は、それに関してはなにも言わない。

…いや、ちがうか。

何か言ってしまえば、未練が残ってしまう気がして…。

だから、“なにも言えなかった”のほうが正しいのかもしれない。

攻める日時の情報は、赤城組にも入ってるはずだ。

お祖父様が攻められたときは、雷が内密に計画を進めていたからアレだったみたいだけど、今回は正々堂々と行くらしい。

この男が言う前日は、私が間違ってなければ雷たちが赤城組を攻める日の前日。

そのときまでに戻ってこいということだろう。

「…………」

ていうか、さ。

よくよく考えてみたら、それって明日じゃん。

思わずため息をつきそうになったけど、視線を感じてそちらを見れば、

「……なに」

男がこちらを見つめていた。
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