翼~開け放たれたドア~
「本当なら、生きることに理由なんかいらねぇとは思うがな。
でも…、お前はそれがほしいんだろ?」

「……んっ」

しゃくりあげながらもコクっと頷けば、揺れる目の前の世界のなかで、空夜がフッと笑った……ような気がした。

「だったら…理由やる代わりといっちゃなんだが…俺の側にいてくれねぇか?」

空夜は、私の頬を伝う雫をすくい上げると

「約束したじゃねぇか。
もうどこにも行かねぇって……」

妖艶に微笑んで、だけど、悲しそうに眉を下げる。

「お前は優しいから、俺らを守るためにそれを破ったとしてもよ、俺はお前が傷つくのは見たくねえ。もう、どこにも行かねえでくれ。
俺は、もう大切なものは手放したくねえから」

それは、母親に捨てられたのだと話してくれたときの表情にそっくりだった。

そのまま、空夜は私に顔を近づけて……

「──俺のために、生きろ」

…そう、甘く甘く。

私の耳元で囁いた。
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