翼~開け放たれたドア~
「──なぁ」

ピタリと。

時が止まったようだった。

久しぶりに聞いた、懐かしい声。

「もう、止めにしねぇか?」

部屋の畳を踏みしめる音がして、声の主が近づいてくる気配が伝わった。

ぐるぐる…ぐるぐる…頭のなかの記憶の欠片が、その声に導かれ、重なり、繋がっていく。

あぁ…そうだ。

どうして私は忘れていたんだろう?

その人は、お母さんと一緒に、私の側にずっといてくれたのに。

動きが止まった私の髪から、赤城啓吾の手が抜ける。

「……んで、ここに…」

驚きを隠せないような声音に、突然やってきたその人がふっと笑った……ような気がする。

だけど背中越しに音がして、皆が道を開けているのか、数人が歩くのがわかった。

なぜなら異様なほどに、その人は威圧感があって、オーラというものが漂っていたから。

…といっても、空夜ほどじゃないけど。
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