翼~開け放たれたドア~

偽りの記憶に踊る

なんで、って…ずっと思ってた。

お母さんのことは思い出せていた。

なのに、お父さんのことは全然覚えてなくて。

あの最後の記憶だって、お母さんの顔は鮮明に見えるのに、お父さんの顔だけはぼやけるように思い出せなくて。

どうしてか、漸くわかった。

それ自体が違ってたんだ。

あれはお父さんじゃない。お兄ちゃんだったんだ。

お父さんは病気で、私が生まれてすぐに亡くなったと聞いた。

だけどそんな私に、お兄ちゃんは決まって

“俺には春輝がいるからな!寂しくなんてねぇよ?”

そう言って笑った。

だけど……、あの、お母さんとお兄ちゃんと私で出かけたあの日。






「春輝!」

大好きなお母さんの香りに包まれて、その直後に身体に衝撃が走る。

だけど、何かがその衝撃を和らげて…

「母さん!春輝!」

何が、起こったかわからなくて。
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