翼~開け放たれたドア~
「……うん」

私は手に力を込めた。

お母さんにはそれで伝わったらしい。

また笑ってから、ふんわりと力を込めて抱きしめ返してくれる。

それが、私にはすごく嬉しかった。

「……でも、こんな形でまた会うことになるなんてね」

その一言で、ふと自分が撃たれたことを思い出した。

あんなに痛かった背中の痛みは、今は全然感じないから忘れていた。

“また”の意味が分からなかったけど、私はそれについては、お母さんに何も問いかけずに、ただお母さんに抱きついていた。








「……春輝?」

不意にお母さんが私を呼んだ。

お母さんは、さっきと同じ笑みで…

「もう、あなたは行かなくちゃ」

そう、静かに言った。

「え…?」

意味が、一瞬分からなかった。

何、言ってるの?

「分かってるでしょう?
あなたはまだ死んでなんかいないのよ。
だから……あなたは行かなくちゃ」

お母さんの言葉に、私は心のなかで頷く。

うん、気づいてたよ。

だって…、私は体温が低いけれど確かに温かみがある。

だけど、私が抱きつくお母さんは……とても冷たかった。

脈も、温もりも、感じなかった。

でも、私は……

「ど、うして…?私、ここにいたいよ……」

そう、ここにいたい。

だって…

「お母さんと一緒にいたい……」

お母さんのワンピースを握りしめる。

いかないで。

そう、強く願って。
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