翼~開け放たれたドア~
「そうよ?愛は人の心を満たす。
春輝も、人をたくさん愛してあげて?
そうすれば……、あなたも人に愛される人になるわ」

「……うん」

「生きる理由……もらったんでしょう?」

「!」

“──俺のために、生きろ”

空夜のあの甘い声が脳内に響く。

ドクリと大きく音をたてた胸をギュッと握りしめた。

気づいてしまった気持ちはとどまることをしらない。

満たされて、それでもまだ足りずに溢れ出ていくんだ…。

私はそっと、胸の前で組んでいた手をおろし、目の前で微笑むお母さんの瞳をとらえた。

お母さんは、一瞬視線を絡ませてから、視線を自分の上の青空へと移した。

「──だったら迷わずにいきなさい。
今のあなたなら…飛べるでしょう?」

……そう言ったお母さんの声は震えていた。

「……お母さん」

お母さんにどんな声をかければいいのか、一瞬迷ってしまった。

だけど、お母さんはきっと、泣いていることを言われたくないはず…。

だから、私は──

「──行ってきます」

また、いつか心(ここ)へ帰ってくるということを暗に言う。
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