翼~開け放たれたドア~
直が言った“海さん”という言葉に、俺は何も言えなくなった。

なんとかしていた相槌さえできずに、俺は拳を強く握りしめる。

“もしかしたら、動けねぇで弱いまんまなのは俺かもしんねぇな”

──海さん……。

海さんはやっぱ強ぇよ。

俺は……こんなにも怖くてたまんねぇのに…。

海さんは、春輝が帰ってくるの信じて疑わない……。

「……っ」

ビリッとした痛みが掌を襲って我に返る。

ふと手を広げてみると、爪が食い込んだせいで赤く充血していたけど、こんなもん、春輝の苦しみに比べれば……。

“お前はどうしてそこまで春輝を守りたいと思 う? ”

不意に蘇る海さんの言葉。

“お前の強さは……どこにある?”

春輝を想うだけじゃだめなんだろうか。

あいつを想う気持ちだけじゃ……俺は強くなれないんだろうか。

俺は……何に気づくべきなんだ?
< 478 / 535 >

この作品をシェア

pagetop