翼~開け放たれたドア~
俺は直と同様に、呆れたようにため息をこぼしたが、まぁこれが俺たちだしな。

だからあとは──

「………春輝」

俺はゆっくりと振り返ってその名を呼ぶ。

「ありがとな。お前のおかげで気づけた」

軽くかぶりを振る春輝。

……ふっ、かわいいな。

その、いつもの無口な春輝の、少しだけ幼く見える仕草が俺は好きだったりする。

思わずこぼれた笑み。

だけど、次の瞬間にはそんなものは凍りついていた。

「……おい、春輝?」

目の前の光景に目を丸くする。

一歩。また一歩と。

春輝は少しずつ後退していく。

「春輝…?」

春輝が遠ざかり、俺はできた距離を埋めようと歩みを進める。

だけど、そんな俺を見ても、春輝は俺の呼びかけにも反応せずに、俺に背中を向けた。

「おい!春輝!」

俺のその大声で、周りの声がピタリと止まったのに、あいつはそのまま遠ざかろうとする。

──ドックン!

“ねぇ、置いていかないで……”

“うるさい!!”

行くな。行くな。

頭のなかでは、春輝を引き止めようとする…そんな言葉がいっぱいでてくんのに、喉で突っかかってそれが声にならない。

また無くすのか?俺は、後悔しねぇのか?
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