翼~開け放たれたドア~
全部全部、あの日、あの場所に捨ててしまった。

「好きってなに?
嬉しいも楽しいも、私には分からないから、あんたの感情も分からない。
今は雷たちがいるからちょっとは分かるかもしれないけど。
私にあるのは…」

捨てたくても捨てられなかった。

“孤独”な私の手に絡みついて。

捨てたと思い込んでいただけだった。

「“苦しい”と、“悲しい”。
それから、“辛い”。それだけだよ」

そう言った私の声は、いつの間にか静かになった倉庫の全員に聞こえたと思う。

「だから別に姫になってほしくないなら反対すればいい。いやだって言えばいい。
今更傷ついたって変わらないし、どうせいつものことだから。
言いたいことはそれだけ」

言いたいだけ言って、その目を見つめる。



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