明日、嫁に行きます!

「寧音《ねね》ちゃん、頼む! 嫁に行ってくれ!」

 テーブルに手をついて頭を下げる父の言葉に、私は持っていたお箸をポロリと落とした。
 今は晩御飯中で、いつも通りの夕食……のはずだった。

「お父さん、なんの冗談?」

 ごめん、全然笑えない。
 摘まんでいた卵焼き、落としちゃったじゃない。
 ムッとお父さんを睨んでみるんだけど、その顔は紙のように顔面蒼白で。
 ただならぬ雰囲気に5人いる弟妹たちも、目を白黒させて固唾を呑んでいた。

「冗談じゃないんだ。このままじゃお父さん、会社が倒産した挙句に破産して……一家離散しかないんだぁぁ!」

 わあっと泣き伏すお父さんに、さすがの私も焦ってしまう。

「だから、なんで私の結婚と一家離散がつながるのよ」

 だいたい私、大学一年のまだ18歳なんですけど。

 ……嫁って。

「寧音ちゃん、あのね」

 お父さんの背を宥《なだ》めるようにさするお母さんが、綺麗な藤色の瞳を曇らせながら切り出してきた。

「知っての通り、お父さんの会社は鷹城《たかじょう》コンツェルンの孫会社でしょ? そこの若社長さんが、先日の創業80周年記念式典で、貴女を見初めたそうなのよ」

 6人の子持ちとは思えないほどに悩ましげな視線を私に送ると、お母さんはほんのり頬を染めながら溜息を吐く。
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