明日、嫁に行きます!
気鬱なため息が漏れてしまう。
創業80周年記念式典の当日、僕はギリギリまで控え室にいてやるつもりだった。
わざわざ出て行ってうるさい輩の相手など考えるだけで億劫になる。
この派手な式典も、ハッキリ言って煩わしいことこの上なかった。
なぜなら、関連会社や大株主などに、我が社が如何に好調な業績を納めているかそれを示すためのただのパフォーマンスに過ぎなかったからだ。
これは、お祖母さんの案だった。
今日来場する多くは、美人の娘持ちだと嬉々として話していたことを思い出す。
あわよくば、来場する女達の中から僕が気に入る女が居ればいいとでも思っているんだろう。
このままでは曾孫の顔を見る前に私は死んでしまうと、会うたびに脅迫する祖母の姿が頭を過ぎって気が重くなる。
――――面倒くさい。
不満を吐き出すようにして、また口からため息が零れる。
現社長で本日のホスト役である僕は、このまま帰ってやりたい衝動を押さえ込むのに必死だった。
その時、控え室の扉を突き破る勢いで入ってきたのは、僕の従兄弟である第一秘書の徹だった。
「しゃちょー! ちょっとは外に出てご令嬢達の相手してやって下さいよー! ボク一人の手に負えないよぉ」
若干ヨレヨレになった徹の姿を見て、天を仰いで嘆息する。
手にした煙草を灰皿に押し当てて、僕は革製のソファから立ち上がった。
「凶暴なご令嬢もいたものだな。身なりを正しておけ」
そう吐き捨てて、扉の向こう側へと僕は歩き出した。