明日、嫁に行きます!
「見つけた」

 僕は徹から手渡された書類を見て会心の笑みを浮かべた。
 彼女を捕らえる、王手。
 それは、彼女の父親が作った莫大な借金だった。

「3億は僕が支払う。すぐに手続きを」

「はーい」

 そう言われるのを予測していたんだろう。
 徹はすぐさま用意していた必要書類を手渡してくる。

「完了までにどれくらいの時間がかかる?」

「ま、今日中には」

 よし、と頷いてシガレットケースに手を伸ばす。長年愛用しているジッポーを手のひらで遊ばせながら、キンッと火をつけた。

「しゃちょー。仕事してる時より嬉々としてるねえ」

 ――――寧音ちゃん捕獲作戦には。

 ニヤニヤと品のない笑みを浮かべる少女じみた男の容貌を、紫煙を吐きながらチラと見る。

「あれは僕が見つけた。僕のものだ。一秒でも早く片付けろ。僕は待たされるのは好きじゃない」

「知ってるよー。オレはずーっと総兄と一緒だったでしょ。オレは今も昔もあんたの腹心だからね」

 幼い頃の呼び名で呼ばれて、ふふっと笑みが浮かぶ。

「徹は変わらないな。その笑顔の下で、僕も驚くようなえげつないことを平気でする」

 邪魔な企業の裏ネタを脅し取り、それを出版社に売り込んで破綻へと追い詰めた。などは日常茶飯事。
 犯罪にこそ手は出さないが、いつもすれすれの橋を好んで渡る。

 ……まあ、その指示を出しているのは、僕なのだが。

 なんにせよ、笑顔の下に隠した彼の本性には、ほとんどの人間は気付かない。

「いや、自分を棚に上げないでくれる? オレは腹黒さとえげつなさで言ったら総兄には絶対敵わないし。それに、逆らうヤツが悪いんでしょー?」

 心外だとばかりに頬を膨らませる男に、失笑が漏れる。

「確かに」

 その会話を最後に、徹は僕に頼まれた仕事を急ピッチで進めていった。


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