明日、嫁に行きます!
 午後を回る頃には、融資の肩代わりをする代わりに寧音を渡せという身売りのような話は、斉藤家へと無事伝えられた。
 後はどういう返答が返ってくるか。
 落ち着かない気持ちで僕はそれを待った。

「しゃちょー。ねえ、タバコ、本数エラいことになってるよ」

 部屋も空気清浄機が間に合わないほどに煙たい。
 徹はそう言って扉を開け放った。

「また灰皿からタバコの吸い殻溢れ出てるんですけどー……ってかヤメてくれる!? 灰皿一杯だからって机でタバコの火ィ消すの! あっ、だからってその吸い殻を普通にゴミ箱捨てないでよね! 燃える燃えるっ!」

「……うるさい。適当に捨てとけ」

 ――――お前は嫁か小姑か。

 喉元まで上がった言葉を飲み込んだ。想像したら気持ち悪くなった。
 新しい煙草を咥えながら足を組み、窓の外に目を遣りながらそっけなく答える。
 背後から大仰な徹の溜息が聞こえてきたが、無視した。

 その日の夕方。
 徹の内線に1階受付から電話がかかってきた。
 アポなしの来訪者があったらしい。
 電話を受けた徹が振り返り、驚いた顔つきで、

「斉藤……ベネディクトさんって女性が来てるらしいよ」

 聞いたことのない名前。
 誰だ? と徹に目を遣る。

「寧音ちゃんのお母さんだって。今ロビーに来てんの。会う?」

「! もちろんだ」

 僕は手にした書類を机に置いて席を立った。

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