明日、嫁に行きます!

「……そうならないようにこちらで手を打ちます」

 いや、もう手は打ってある。
 寧音は誰であろうと譲りはしない。
 僕は彼女の挑発的な眼差しを撥ね付けた。

「貴方の眸、私と似てるわ」

 彼女は面白そうにクスクスと声を立てる。

「上っ面と中身が全く異なってそうなところとか」

 興味深そうにニコニコ笑ってはいるが、それは決して褒めてはいない。
 けれど、この女には僕と似た何かがあると感じて共犯者めいた笑みが互いに浮かんだ。

「まあ、あの子の過去の彼氏、何人か見てきたけれど。貴方の方がずっといいわ。あの子を大事にしてくれそうね」

 ただ、かなり嫉妬深そうだけど。

 その言葉に今度は僕が目を瞠る。

「ほんと、私と似てるわね」

 ふふっと、どこか二心ある顔で微笑を浮かべる。そして、「ああ、そうだ」手をポンと打ち彼女は耳打ちしてきた。

「良いことを教えてあげる。残念ながら寧音ちゃんは、貴方のような完璧な男は好みじゃないの」

 ナイフで胸を切り裂かれるような痛いセリフを事も無げに言わないで欲しい。
 彼女はそれを知っていて吐いていることは、その楽しげな表情を見ていれば分かる。
 寧音と真逆な黒い女だと僕の顔に苦笑が滲んだ。

「あの子はダメな男を愛してしまうのよ。自分がいなければこの男はダメになると思わせるような、ね。私と同じなのね」

「僕は完璧などではありませんが」

「ご謙遜。貴方じゃダーメ。どうしても好かれたいと仰るなら、今のご自身と真逆のことをやってご覧なさい。そう、例えば」

 そして、彼女に口から意外な言葉が出た。

「あの子は家事が好きだから……何も出来ない男を演じてみたら? 自分のことすらろくに出来ないダメ男をね」

 は? と間抜けた声が口から出そうになるのをグッと耐えた。
 何を言っているのか。
 そんなことで、寧音は僕のことを見るとでも言うのか。
 ……訳が分からない。

「騙されたと思ってやってご覧なさい」

 そう言って、寧音とよく似た容姿の母親は、艶やかに顔を綻ばせた。
 

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