明日、嫁に行きます!
 翌日、僕は徹に自宅のカードキーを渡して、自社株についての会合のため本社へと向かった。
 そして、全てが終わったのはすでに深夜を回った時間だった。
 徹に渡したカードキーは事前に受け取っている。
 その際、

『すっごいよー! 多分、総兄びっくりしてひっくり返るんじゃないかな!』

 腹を抱えて爆笑する徹に、僕は一抹の不安を覚えたのだが。
 玄関扉を開けて、絶句した。

「なんだこれは」

 手から離れた鞄がドサリと玄関に転がった。

「……あいつは僕に恨みでもあるのか……」

 呆然とした呟きが漏れる。
 ダメンズとはここまでしないとダメなものなのか。
 目の前の惨状を見ていられなくなり、思わず視線を逸らした。

 ――――自宅が腐界と化している。

 もはや足の踏み場すらない。
 どうやって中には言って良いのかすらわからない。
 この大量のゴミはいったいどこから持ってきたのか。
 何故廊下の真ん中に業務用の白長靴の片方だけが落ちているのか。
 そもそもあれは誰のものなのか。
 クローゼットに仕舞ってあった僕の服も見事にあちらこちらに点々と散乱している。
 その上には、誰のものやら分からない薄汚れたスニーカーやらサンダルやらが乗っかっていた。
 あまりの惨状に動揺が隠せない。
 打ちひしがれて目尻には光るモノが浮かんでしまう。

 ……誰も居なくてよかった。

 僕はポケットからシガレットケースを取り出して、煙草に火を付けた。
 とにかく、ここは落ち着かなければ。
 視線を落とすとゴミに埋もれた灰皿があった。

 ……なんでリビングにあった灰皿がこんな所に……。
 
 がくりと肩が落ちた。
 深い吐息と共に燻《くゆ》る煙が吐き出される。
 昨日までの部屋の原型を全く留めていない自宅に再び視線を戻して、この事案は徹に任せてはいけなかったのだと僕は改めて痛感した。



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