明日、嫁に行きます!
「そーいちろーさーん!!」
リビングから寧音の声がする。
重い瞼をこじ開けた。
まだ寝足りない気怠い身体を無理矢理起こす。
ああ、昔の夢を見ていたのか。
フッと頬が緩む。
懐かしい。
おかげで僕は未だにダメンズ扱いだ。
自宅の凄まじいまでの惨状が、徹の仕業であることは知られていない。
それでいい。
知られたからと言って今さら断ち切れる縁でもない。
寧音は僕の妻になった。
僕の子を身籠もり、そして、僕に愛を囁いてくれるようになった。
「総一郎さんってば!」
バンと扉を開けて寧音が寝室へと入ってくる。
「赤ちゃんっ! お腹で動いたんだよ!」
嬉々とした興奮顔で寧音は僕に駆け寄ってくる。お腹の子供が動く度、彼女はこうして報告に来てくれるのだ。
「触って触ってっ」
ベッドに半身を起こした僕の手を取り、自分の腹部へと触れさせる。
寧音はワクワクとした顔つきで自分の腹部を凝視していた。
少しだけ膨らんだ寧音の腹。
僕の手のひらの向こう側には、結婚前に授かった子供がいる。
その事実を知ったのは、結婚してすぐ後だった。
はにかむように、寧音は言った。
「来年には家族が増えるよ」と。
その言葉を理解するのに、僕は時間が掛かってしまった。
あまりにも嬉しいその話を、すぐには理解できなかった。
そして次の瞬間、僕は勝利に微笑んだ。
これでもう、寧音は僕からは離れていかない。離れることは出来なくなると。
避妊しなかったのは、寧音を捕らえるためのいわば保険だった。
万が一の出来事が起こった時の保険。寧音を僕へと繋ぐための最終手段。
「あっ、わかった!? 今、ちょっとだけ動いたっ」
彼女の嬉しげな声に、僕の意識が思考の海から浮上する。
キラキラと期待の籠もる眼差しで僕を凝視する彼女が可愛くて仕方ない。
彼女の行動にいつも理性が引き剥がされそうになって困る。
微苦笑を浮かべながら、僕は寧音を見つめた。
「すいません、分かりませんでした。昨夜ははっきり分かりましたが」
「さっきね、グリンって感じたのよ。手を当てたらね、ぽこんって動いたんだ。あれー、おーい起きてえ、暴れていいよー」
寧音はガッカリした顔で腹の子に呼び掛ける。僕は寧音のお腹に手を当てたまま彼女の腰を抱き寄せた。
「寧音、安定期に入ったんですよね」
僕の質問に、寧音は「うん、16週目に入ったよ。今日で5ヶ月目!」と頷く。
「では、これからは、こちら側で寧音を愛しても良いと言うことですね?」
下腹部に触れる手をそのまま下へと下ろしていき、服の上から秘された箇所を確かめるようにして、ツ、となぞる。
瞬間、寧音の身体がギクリと強ばった。
「ひっ、待って待って、なんでそうなるの!?」
「エプロン姿で僕を誘惑する寧音が悪いのです。それに、暴れて良いと許可も頂きましたし」
ニコリと笑みながら、寧音の身体を僕の下に押さえ込む。
「違う違うっ! 暴れて良いのは赤ちゃんであって、総一郎さん違うからっ」
ぶんぶん頭を振りながら「きゃーっ」と悲鳴を上げる彼女を見下ろしながら、狂暴なケダモノが蠢き出すのを身体の奥底で感じた。
寧音の顔が真っ赤に染まり、あわあわと驚き慌てふためく姿にたまらなくそそられる。
許して欲しいと懇願する顔が見たい。快楽に翻弄されて泣く姿が見たい。僕の名を呼びながら果てる彼女が見たい。
……思うさま虐めてやりたいという衝動が止められない。
寧音の存在は、僕の理性のストッパーをいとも容易く外してしまうから本当に困る。
いや、困るのは僕ではなく、むしろ寧音の方か。
そう思い、くくっと喉の奥で低い嗤いが漏れた。
「寧音はどちらがお好みですか?」
背中に回した手のひらで双球をグッと掴む。
ヒッと僕の身体の下であがる驚愕の声に、ゾクゾクとした愉悦がわき起こり僕の背中を慄わせる
。
「ケ、ケダモノッ」
きゃーっとジタバタ暴れる寧音に顔を寄せ、彼女の弱点の一つである耳に唇を落とした。
「男は皆、ケダモノなのです」
――――前にも言いましたよね?
僕は微笑みながら、荒々しく鎌首を擡(もた)げ始めたケダモノを宥めるために、愛しい妻の身体を貪り始めた。