明日、嫁に行きます!
「貴女は私に似てとっても綺麗だから、仕方のないことね」
――――お母さん、頼むから空気読んで。なに「当たり前」みたいな顔してんの。今は自画自賛するところじゃないでしょ。
すっかり呆れ顔になった私は、お母さんに白い目を向けた。
「確かに寧音は、フランス人のお祖母様に似て、日本人離れした綺麗な顔立ちだからね。まるで生きたフランス人形だもんね」
だからね、お父さんも。娘自慢するところでもないでしょ。完全に話ズレてんですけど。
うちのチビたちも口々に「わたしもママ似だから綺麗よー」とか「俺は父さん似だからボンヤリ顔なんだよな~」とか。
好き勝手に騒いでいるけれど。
「ちょっと! だから、なんでそれが私の結婚に繋がるっていうの!? 私まだ18なんだけど!」
マイペースな家族たちに、とうとう私はキレて叫んでしまった。
「まあ、私は貴女を17で産んだわよ」
にっこり笑う母に脱力してしまう。
この人はどうしてこう毎度毎度論点を逸らせてしまうのか。
「か―――っ! もう! 私を見初めたってだけで、なんでそんな訳のわからない事態になってるのかって聞いてんの!!」
星一徹よろしく、ちゃぶ台ひっくり返してやろうか。
ちゃぶ台違うけど!
「寧音が20歳になったら鷹城に嫁ぐことを条件に、破産寸前のウチに融資してくださるって仰るんだよ、若社長様が」
若社長様って、どんだけへりくだってんの、お父さん。でも、ちょっと待ってよ。
怒る私の顔色を覗いながらお父さんは話すんだけど、それってつまり、人身御供ってやつなんじゃないの!?
胸に渦巻く不満が、怒りにすり変わる。
今なら噴火寸前なこの怒りで、ヒーロー的なナニかに変身できる! そう思うほどに私は怒髪天を突いた。
「融資ってそんなもん、銀行に頼めばいいじゃないの!!」
「断られちゃったのよねえ、ぜぇんぶ」
困ったわねぇ、と頬に手を当てて淡い微笑を浮かべるお母さん。
その瞳に浮かぶ鋭い光に、思わずギクリとしてしまう。