明日、嫁に行きます!
「さささ、3億……!? み、み、水商売でもなんでもすれば、それくらい……」
「無理ですね」
……だよね。
ケタが違いすぎるよね。
あまりのことにふらりと気を失いそうになる。茫漠とした悲哀の中にポトリと落とされた心地がした。暗い淵に引きずり込まれたような虚脱感に苛まれ、足元が覚束なくなる。
3億で私は売られてしまったの? この男のものにならないとダメなの? また心を殺して人形にならないといけないの?
わき上がる絶望的な疑問に、ジワリと涙が溢れそうになる。
そんな私を見て、鷹城さんはふっと笑った。
「まあ、一緒に暮らすといっても、貴女にはただ家事全般をお願いするというだけですが」
目の前が昏くなる私に、鷹城さんはそんな助け船を出すようなことを言う。
私は、重い思考に潰されそうになっていた頭をガバッと上げた。
「え? なに、それって、住み込みの家政婦さんみたいに扱うってこと?」
私の問いに、鷹城さんはこくりと頷く。
「大学もここから通えばいいですし、20歳までのバイトだと思えば気楽なんじゃないですか」
鷹城さんの言葉に、私の心は激しく揺れた。
3億の融資はもうすでに実行されている。私が大学を辞めて外で働いたところで、3億なんて大金、一生働いても返せるとは思えない。けれど、家政婦として住み込みで働けば、あと2年でチャラになると鷹城さんは言う。
妻にすると言ったり、家政婦をやれと言ったり、鷹城さんの真意がどこにあるのか分からないけれど。
でも、それだけでいいなら、今まで家で散々やってきたし。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……手ぇ出したら許さないから」
拳を握りしめ、覚悟を決めて、最低限のルールを伝える。
守られないなら、問答無用で帰ってやるんだから。
「まさか。僕はそこまで飢えてませんので。ご心配なく」
あ、この男。今、鼻で嗤いやがった。
18のガキに欲情するかっていう顔してる。
……なんだろう。
めちゃくちゃ腹が立つんですけど。
「では、もう一度聞きますね。自分で3億稼ぐか、20歳まで僕の元で家事一切を頼まれてくれるか。貴女の意思で決めて下さい」
簡単な選択でしょ? と、片唇をクッと持ち上げて、鷹城さんは嗤う。
「……わかったわよ。その代わり、絶対手は出さないこと。これが条件だからね」
「了解しました。契約成立ですね。後から反故《ほご》には出来ませんので、そのおつもりで」
「そこまで根性なしじゃないわよ! バカにしないで」
やると決めたからには徹底的にやってやる!
目の前にそびえ立つ超高層マンションを、私は親の敵《かたき》の如く睨み付けた。