明日、嫁に行きます!

 ここで着替えてもらうって、え、なに?
 車が止まった先に視線を移して、ギョッとした。

 ……マジデスカ。

 そこはテレビでもよく紹介される、有名なブランド通りと呼ばれるお洒落な一画だった。
 鷹城さんが「ここだ」と指差したお店は、軒を連ねる店舗の中でも群を抜いて高級そうな佇まいをしていた。赤茶けた瀟洒《しょうしゃ》な煉瓦造りの建物には、誰もが知るブランド店名がシルバーフレームに記されていて。
 瞬間、私の顔が、『ムンクの叫び』になってしまった。
 どうみてもこのお店、普通の女子大生が行ける場所じゃないよね?
 敷居が高すぎる。
 茫然自失になる私を、鷹城さんは無理やり車から引き摺り出した。
 私は脱兎の如く逃走しようとしたんだけど、鷹城さんの動きの方が早かった。
 私のズボンをガッシリ掴んだ鷹城さんは、抵抗する私の身体を抱え込み、逃げられないようにしてしまう。端から見たら、仲良さげに寄り添う二人は、ラブラブな恋人同士として映るだろう。
 けれど、実際は違う。
 ベルトをガッシリと掴まれ無理やり歩かされる私は、さながら刑事に捕まった犯人のようだった。
 そして、ズルズルと引っ張られるままとうとう店の前まで来てしまう。
 私は死刑囚のような面持ちで、重々しく威厳に満ちた佇まいの店舗を悄然と眺めた。

 なに、あの眩《まばゆ》いばかりに光り輝くシャンデリア。
 絨毯真っ赤だし、従業員の皆様、黒服着てらっしゃいますよ。
 しかも、白の手袋までして。
 白手袋を填めたジェントルマンが、鷹城さんの姿を見て、満面の笑みで扉まで開けて下さいます。
 鷹城さん、貴方、常連さんなのですね。
 貴方が超お金持ちなことを、今、この瞬間、とくと理解しました。
 豪華なマンションを散らかしまくっていたけれど、確かにあの家も豪華な造りでしたね。
 理解した。理解したから、背中、ぐいぐい押さないで!
 入れない、私、チョモランマ並みに敷居の高いこんな店、ムリムリムリムリッ! なんの拷問なんですか、これ! なんで貴方、意地悪そうな目で笑ってるの!?
 あ、やめて、ゲイ様、腕、引っ張らないで、背中押すなバカヤロ――――ッ! 私、ホント真面目に入れない!
 だって今着てるこの服、しま○らでトータル4980円なんだもん! 

 きゃ――――っ!

「支配人、彼女に合うものを頼む」

「はい。鷹城様」

 にこりと上品に笑った支配人らしき女性に連れられて、私は抵抗空しく試着室へと強制連行されてしまったんだ。


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