明日、嫁に行きます!
そのまま私は、だだっ広い社長室へと案内されたんだけど。
何もすることがない私は、彼らがこなす仕事の様子をただ座ってボーッと眺めているだけで。
家ではあんなにもひっちゃかめっちゃか散らかし放題な鷹城さんなのに、職場では机上も整理整頓されてて凄く綺麗。
本棚なんて、見やすく業種・種別ごとにそれぞれ『あいうえお順』に整然と並んでる。
自宅とは大違いすぎて、にわかには信じられないほどの衝撃だ。
几帳面さまで垣間見えるほどの完璧ぶりだった。
それに、テキパキと的確な指示を出し、対処に当たるその姿は、さすがとしか言いようがなかった。
ふうん。仕事は出来るんだよね。それは見た目通りだわ。何言ってのるかちんぷんかんぷん、さっぱりだけど。
専門用語が飛び交う中、私は知ってる言葉に反応した。
「トロール事業なら、アジア地域のエビなんて有名よねー」
白い大理石のテーブルに頬杖を突きながらポツリと呟いたそのセリフに、突然二人の視線が私に向いて、緊張が走った。
――――な、なに!? ビックリした!
「そういえば、寧音は海洋学部でしたね」
鷹城さんの言葉におずおずと頷く。
そうだけど……なに?
顎に指先を当てて、何やら考え込んでいる様子の鷹城さん。彼の視線が私を捉えたまま離れない。背中に冷たい汗が流れ落ちる。私は鷹城さんとしばし見つめ合ったまま、『蛇に睨まれたカエル』の気持ちを味わっていた。
「貴女、僕の仕事を手伝ってもらえませんか」
「あい?」
しまった。緊張しすぎて返事がアホだ。
「もちろん、簡単なお手伝いで結構です。報酬も出しますよ」
―――時給10000円で。
鷹城さんのそのひと言に、私の言語中枢と思考能力がフォーマットされ、頭の中が真っ白になってしまった。