明日、嫁に行きます!
「と、徹くん……」

 私を追っかけてきたのか、にっこりと男殺しな微笑を浮かべながら徹くんが近寄ってくる。

「ねえ、寧音ちゃんって今しゃちょーのウチにいるんでしょ?」

「ええ、まあ。お手伝いさんとしてですが」

 ふうん。
 顎に手を当てて、徹くんは考えるように何度も頷く。

「あの部屋見てどう思った?」

 柔らかい声で質問を繰り返す徹くんは、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべているんだけど、彼の眸だけは、笑顔を裏切る鋭さで私を捉えていて。思わず肩に力が入ってしまう。

「……ギャップに爆笑しましたけど」

「あははっ、結構大変だったんだよね~」

 大変? なにが?
 ん?? と首をひねる私に、徹くんは一気に破顔した。

「ははっ、何でもない何でもない、こっちの話。でも、そんなダメンズなしゃちょーには、私が傍について居なくちゃダメね、とか母性本能的なナニかが刺激されたんじゃない?」

 なんだその発想は。
 ダメンズウォーカーか私は。
 ……でも、過去に付き合った男達は、ダメンズ傾向が強かったから何とも言えない。
 何でも出来る完璧男より、何も出来ないダメ男の方が、私が何とかしてあげなくっちゃって思ってしまうのは確かだけれど。
 そんな男が好みかと聞かれたら、正直よくわからなくて頭を抱えてしまう。
 これも長女気質の弊害なのか。
 絶対口には出来ないけれどそうかも知れないと思い至り、がっくりと頭を垂らした。
 懊悩を繰り返す私を、まるで動物園のパンダでも見るような目で、徹くんは興味津々に眺めている。

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