明日、嫁に行きます!
「うわーん、しゃちょー怖かったよー」

 私の手が緩んだ隙に逃げ出した徹くんは、両手を広げて鷹城さんに駆け寄った。

「……気持ち悪い」

 思い切り顔を顰めた鷹城さんは、抱きつこうとする徹くんを片手で払いのけると、そのまま私の方へと歩み寄ってきた。
 泰然と構えるその姿に、私の心臓が早鐘を打つ。

 なんで? なんでドキドキしてんの私??

 狼狽する私を、鷹城さんは見透かすような眸でじっと見てくる。
 シックな濃紺のスーツを身に纏いこちらへと向かってくる鷹城さんは、視線が逸らせないほどに色めいた大人な雰囲気を纏っていて。
 男女問わず目を奪われるんだろうなあと素直に思う。
 現に私の目もこうして奪われてるんだから、彼はよっぽどのフェロモン男に違いない。
 この煩い胸の鼓動は、きっと鷹城さんのフェロモンにあてられてしまったから。
 耐性のない私はドキドキしても仕方ない。これは不可抗力。
 そう結論付けてホッとした。

 ……でもほんと、こうして見てると文句なしに格好いいんだよなあ。

 胸元を押さえながら、知らず、ぼうっと魅入っていた私に、鷹城さんは満足げな表情を浮かべた。
 狡猾な笑みを刷く彼の双眸には、所在なげな私の姿が映り込んでいて。
 怯む私の様子をつぶさに観察していた鷹城さんの唇が、ゆっくりと弓なりに吊り上がってゆく。その様を、私は呆然とした面持ちで見つめることしか出来なかった。

「さあ、寧音。仕事は片づいたので、行きましょうか」

 甘い声に促されるまま、私は反射的に頷いていた。
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