明日、嫁に行きます!

 車が止まり、連れてこられた先はホテルのレストランだった。
 しかも、凡人が入れないような敷居の高さの、である。
 お客さんが皆さん正装していらっしゃいます。さすがにさっきまで着てた服(トータルコーデ4980円)じゃ、門前払い確実だろう。
 着替えててよかった。
 それにしても、居心地が悪いことこの上ない。
 椅子を引かれて座るのだが、なんだかもぞもぞしてしまう。

「今度は落ち着かない顔してますね」

 好奇心がありありと浮かぶ顔で、愉しげに私を見ないで欲しい。
 なに凡人いたぶってんのこの男。
 こんな高級店、慣れてないのわかってて連れてきたんじゃないでしょうね。
 ぶすっとむくれる私に、

「ふふっ。やっぱり可愛い」

 聞き取れないほど小さな声で、鷹城さんはぼそりと何事かを呟いた。私は「今なんて言った?」と首を横に倒すんだけど。クスクスと肩を震わせる鷹城さんに腹が立った。

「な、なに笑ってんのよ」

「いえ。こういう場所も、慣れておいて損はないですよ」

 ――――やっぱりこんな高級店慣れてないのわかってて連れてきたなこのドSめ!!

 今まで感じたドキドキは気の迷いだったんじゃないか。
 鷹城さんみたいな底意地の悪いドS男は、絶対に私の趣味じゃない!


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