明日、嫁に行きます!
「……貴方、あたま大丈夫?」
仕事のし過ぎで頭のネジがどっかに飛んじゃったのか。
心配してあげてんのに、鷹城さんの目が険悪に据わり、一気に不機嫌な色を刷く。
「何度も言いましたが、貴女、本当に失礼な人ですね」
「いや、違うのよ、えと、案外鷹城さんにもロマンチックなところがあって……」
――――鳥肌が立ちます。
とは素直すぎて言えない。
「えー、と、意外と乙女系、なんですね?」
精一杯取り繕ってみたのだが。
「それ、言われて僕が喜ぶと思いますか」
「よ、喜ぶ男の人も……いるんじゃないかな」
――――例えば、オネエ系男子とか?
と、口を滑らせかけて、うぐりと飲み込んだ。
鷹城さんの双眸がまたも鋭さを増し、妖しく曇る。
「ふふ。どうしてあげましょうね。一度で理解できないバカな犬には」
バカな犬って言いやがりました!? それ、私のこと!?
――――ってか今本性現したな鬼畜メガネめ!
罵詈雑言が喉元まで出かかって、うっと言葉に詰まった。
片頬だけ吊り上げたニヒルで冷たい彼の微笑に、恐怖で金縛り状態になったから。
私、禁句は大人らしく飲み込んで耐えたのに。
しかも犬とか暴言まで。
くそームカつくっ。
ふふふと肩を揺らせて黒く嗤う鷹城さんを、キッと睨め付けた。
「次にその気色悪い想像をしたら、寧音が理解できるまで存分に嬲って差し上げます。覚悟して下さい」
ぎゃ――――っ!! 怖い、怖すぎる! 存分に嬲るって、凶悪なまでの色気を放つ鷹城さんが言ったら、えっちぃ意味に聞こえてしまう! 覚悟なんて出来ませんっ!!
「二度と言いません、想像しません、ごめんなさいっ!!」
鷹城さん、実はゲイではなくバイかもしれないと、新たな疑念がわき上がる。背中に冷たい汗が流れ落ちた。
バイだったらマズい。
……えっちぃ感じに嬲られる!?
テーブルに頭を擦りつけて、なんとか彼の怒りを静めようと「ごめんなさいごめんなさい」と謝り倒す。
鷹城さんがふっと笑ったのが気配で分かった。
もう怒ってない?
少しだけ視線を上げてみる。
そうしたら、鷹城さんと目が合った。
ただの軽口を言ったとは思えないほどに熱の籠もる婀娜めいた眼差しで射貫かれて。
顔に熱が集まり電流が流れたみたいに全身がゾクリと粟立った。