明日、嫁に行きます!
「寧音は本当に可愛らしい」
ドキッとした。
またも不意打ち。鷹城さんは卑怯な男だ。
もの凄く朗らかに見える良い笑顔で笑ってらっしゃいますけれど。
でも、彼の言うその「可愛らしい」は、決して私の上っ面だけを見て言ったものではないと分かったから、どう反応したら良いかわからなくて。
ただただ戸惑うばかり。
またも身体中の熱が顔に集中し出す。
困った私は、俯いて鷹城さんの視線から顔を隠した。
「顔が真っ赤ですよ。これ以上、僕を虜にしてどうする気なんでしょうね、貴女は」
クスクス楽しげに口元を綻ばせる彼の顔を、恨みがましい眸でチラと見る。
……虜って。本気でそんなこと思ってないくせに。
これだからモテるイケメンはキライなんだ。鷹城さんは女慣れしすぎてる。女の扱いが上手いんだろうな。
さらりと『可愛い』だの『虜になる』だの、挙句の果てには『結婚してあげてもいいよ?』みたいな『お前は結婚詐欺師か』と思うほど露骨な社交辞令を口にする。
怒ったら怖いって部分を見せてさんざんビビらせておいて、でもすぐに甘い言葉で翻弄してくる。飴とムチ、上げて落とす、みたいな。
一回り近く年上な大人の男なんて、今まで付き合ったことないから分からない。だから、私みたいな経験値不足な女は、簡単に落ちるとか思ってるのかも知れないな。
……くそー。これ以上私を翻弄しないでほしい。
鷹城さんなんて全然趣味じゃないでしょ、なにドキドキしてんの、私!
ざわざわと漣《さざなみ》を立て続ける自分の心を叱責する。
このままじゃ私の心が勘違いをして、鷹城さんの術中に嵌まり、まんまと虜にされそうなイヤな予感しかしない。
しっかりしろーっと自分に活を入れてみる。
急速に彼へと傾きかける心のバランスを保つのに、私は必死だった。