明日、嫁に行きます!
高校に入学してからは、そんな自分と決別したくて、ずっと一匹狼だった。
近づいてきてくれる子達も、裏があるんじゃないか、また裏切られるんじゃないかって、必要以上に仲良くなるのが怖かった。
けれど、やっぱり心は寂しくて。
そんな時、劇的な変化が起こった。
今まで私を虐めていた男の子達が、手のひらを返したようにちやほやしだしたんだ。昔虐めてたことを謝ってくれて、仲良くしようって言われて、純粋に嬉しかった。
そうしているうちに、いつの間にか、話しかけてくれる人が男の子ばかりになってしまった。必然的に、私の周りは男友達ばかりになっていった。
そんな私のことが、周りの目には男の子を侍らせているように見えたんだろうな。
『斉藤寧音は淫乱なヤリマンだ』そんな噂が学校中に流れた。
この頃は、まだ男の子と付き合ったことすらなかったのに、淫乱とかヤリマンとか貶されて、すごく腹が立って、すごく哀しかった。
心ない噂を流されて、それまで話しかけてくれていた女の子達までが、私のことを白い目で見るようになった。
哀しくて、寂しくて。
女の子達は私に話しかけてくれなくなったけど、でも、男の子達は今まで以上に優しくしてくれた。
優しくされたら絆されて、甘い言葉を囁かれたら嬉しくて。
弱った私を慰めてくれた子と、私は初めて付き合った。
彼は、すぐに暴力を振るうって噂されてる子だった。けれど、そんなのはただの噂で、悪意ある噂を流されて傷ついているんだって彼は涙を見せた。噂に振り回されて、自分と同じだって同情した。チャラくて大柄な彼が見せる子供みたいな可愛らしい側面に、好感を持った。そして、請われるがままに付き合ったんだ。
彼は傲慢で、本当に子供みたいな男だった。自分の思い通りにいかないと、些細なことでもすぐにキレて怒り出す。
そうしてひとしきり怒った後、凄く反省するんだ。『ごめんね』って泣きそうな顔で謝られて、甘えるようにして私に擦り寄ってくる彼を、私は突き放せないでいた。仕方ないって彼を許してしまっていた。
付き合って3ヶ月後、彼の部屋に行った時、いつものように取るに足らないヤキモチでひとしきり怒った後、甘えるように謝罪してきて、そして、そのままなし崩し的に身体を奪われてしまった。
でも、その後が大変だった。彼の噂は単なる噂ではなく、真実だったんだ。
身体を許した途端、彼の本性が露わになった。
乱暴なセックスに少しでも抗ったら、
『お前みたいな不感症女が文句いってんじゃねえよ。俺が相手してやってんだ、ありがたく思えっつーの。言われた通り、黙って足だけ開いてたらいーんだよ』
そう罵倒され、嘲笑され、言い返したら殴られた。
でも、身体を許すまでは、不器用ながらも彼は優しかったんだ。
それなのに、セックスをした途端、私が不感症だと罵って、力尽くで、暴言で、私をねじ伏せようとしてきた。
いっぱい泣いた。
彼とセックスして感じないわけじゃなかったけど、それでも相手が満足してくれるほどではなかったんだと落胆した。
別れたいって思ったけど、彼からは逃げられなくて。
出口のない迷路に迷い込んだみたいに、不安だけが私の中で膨らんでいって、毎日がすごく辛かった。
そんな時、私に力を貸してくれたのが浩紀だった。
ホテルの前で「別れるからもうしない」と言ってわざと彼を怒らせ、私に暴力を振るった時、タイミング良く警察が現れた。浩紀が事前に呼んでくれていたんだ。
彼の父親は代議士だったから、警察沙汰になってしまった息子を隠すようにして転校させた。
私の前から彼が消えて、ホッとした。
それから私は浩紀と共に行動するようになった。自然の流れで、私は浩紀と付き合った。それは、身体の関係を持つこともなく、ほんの少しの間だけだったんだけど。
浩紀の傍は、居心地が良かった。でも、なにか違うような気がした。
恋や愛とは違う、彼に抱く感情は「友情」だということに気づき、私はそれを浩紀に伝えた。
浩紀は言った。
『やっぱそうかー。いいよ、別れようって言われる気ィしてたし。これからは、前みたいに親友に戻るってことだから』
苦い笑みを浮かべながら、浩紀は別れを受け入れてくれた。
もう彼の傍にいるつもりはなかったから、私は意図的に遠ざかっていった。
そんな私に浩紀は怒った。『親友なのに、なんで離れるんだ』って。
それから彼と私の関係は、『恋人』ではなく元通り『親友』に戻ったんだ。
浩紀がくれる優しい言葉、好意に、私は甘えてしまっていたんだと思う。
そうして、お互い別の人と恋をして、付き合って、恋愛相談したりして、今に至るわけなんだけど。
なぜか私が付き合う男達は、ことごとくダメ男ばかりだった。
DV男、浮気性、借金まみれ、人に言えないようなヘンな性癖を持つ男、etc.
真剣に相談する度、浩紀に鼻で嗤われた。
『お前は典型的なダメンズウォーカーだ』
そう言って。
彼の言葉に反論できなかった。私は何故か欠けた男に惹かれてしまう。弱さや脆さを抱えた男。私が支えてあげたいって思ってしまうんだ。誠実で、何でも出来る完璧な男には惹かれない。だから、誠実を絵に描いたような浩紀に惹かれなかったのかな、なんて思う。女の子達が憧れる男には、私、ちっとも心が揺らがないんだ。
で、最後には、付き合った男に手酷い裏切りを受けて別れるか、犯罪紛いのことをされて強制的に別れさせられるか。
私の恋愛遍歴は、ダメ男ばかりを延々渡り歩く、『ダメンズウォーカー』そのものだったのかもしれない。
今まで浩紀に言われる度、そんなことはないって反論してたんだけど、過去を思い返してみて、彼の言葉通りじゃないかと愕然とした。
シャワーのコックをひねり、長い髪から滴る水が足元へと落ちてゆく様をじっと眺める。
今までは、彼氏になった男達に、もっと好きになってもらおうと我慢ばかりしていた。
素の自分を隠し、相手の言うがまま望むままに、人形のように大人しく、暴言や暴力にも耐えてきた。
でも、鷹城さんには、思いっきり素の自分でいることに気付く。
素の私を見ても、鷹城さんは私をいらないと口にしなかった。
今までのように、人形みたいに口答えせずただ作り物の笑顔だけ浮かべとけ、なんて言わなかった。
それが酷く嬉しくて。
でも、一緒に住んでるのに、そういう約束だからって手を出してもこない。
今までの男は、すぐに私を抱いたのに。
そのことに寂しいとか考えてしまう自分は、浅ましくてイヤだ。
私は頭をぶるっと振るって、浴室から出た。
タオルを巻いて鏡に映った自分を見る。
「……ヒドい顔」
連日の寝不足でクマができてるし。
なんか全身から薄幸オーラが出てる気がする。
長い髪から滴がポタポタと垂れている様が、心霊的な何かを連想させるほどの不幸っぷり。
刹那、鏡に映った私の背後に、いきなり鷹城さんが映り込んだ。
「ぎゃああっ」
咄嗟に振り返ったら、扉を開けて呆然と立ち竦む鷹城さん。
「……失礼」
そう言って静かに扉を閉められる。
リアル鷹城さん!?
今、本物の幽霊的な何かを見たかと思った!!
良かった真っ裸じゃなくて!
タオル巻いてて良かった!!
バクバクと太鼓のように鳴る胸を押さえて、はーっと息をつく。
うぅ、恥ずかしい恥ずかしい……。
思わずその場にしゃがみ込む。
しばらくして、心臓の鼓動が少しだけ落ち着きを取り戻したことを確認すると、着替えなきゃとフラつく足で立ち上がる。
再び振り返って鏡を見たら、そこには眉をハの字に垂らし顔を真っ赤にした私が、迷子になった子供のように所在なげな表情で映り込んでいた。
近づいてきてくれる子達も、裏があるんじゃないか、また裏切られるんじゃないかって、必要以上に仲良くなるのが怖かった。
けれど、やっぱり心は寂しくて。
そんな時、劇的な変化が起こった。
今まで私を虐めていた男の子達が、手のひらを返したようにちやほやしだしたんだ。昔虐めてたことを謝ってくれて、仲良くしようって言われて、純粋に嬉しかった。
そうしているうちに、いつの間にか、話しかけてくれる人が男の子ばかりになってしまった。必然的に、私の周りは男友達ばかりになっていった。
そんな私のことが、周りの目には男の子を侍らせているように見えたんだろうな。
『斉藤寧音は淫乱なヤリマンだ』そんな噂が学校中に流れた。
この頃は、まだ男の子と付き合ったことすらなかったのに、淫乱とかヤリマンとか貶されて、すごく腹が立って、すごく哀しかった。
心ない噂を流されて、それまで話しかけてくれていた女の子達までが、私のことを白い目で見るようになった。
哀しくて、寂しくて。
女の子達は私に話しかけてくれなくなったけど、でも、男の子達は今まで以上に優しくしてくれた。
優しくされたら絆されて、甘い言葉を囁かれたら嬉しくて。
弱った私を慰めてくれた子と、私は初めて付き合った。
彼は、すぐに暴力を振るうって噂されてる子だった。けれど、そんなのはただの噂で、悪意ある噂を流されて傷ついているんだって彼は涙を見せた。噂に振り回されて、自分と同じだって同情した。チャラくて大柄な彼が見せる子供みたいな可愛らしい側面に、好感を持った。そして、請われるがままに付き合ったんだ。
彼は傲慢で、本当に子供みたいな男だった。自分の思い通りにいかないと、些細なことでもすぐにキレて怒り出す。
そうしてひとしきり怒った後、凄く反省するんだ。『ごめんね』って泣きそうな顔で謝られて、甘えるようにして私に擦り寄ってくる彼を、私は突き放せないでいた。仕方ないって彼を許してしまっていた。
付き合って3ヶ月後、彼の部屋に行った時、いつものように取るに足らないヤキモチでひとしきり怒った後、甘えるように謝罪してきて、そして、そのままなし崩し的に身体を奪われてしまった。
でも、その後が大変だった。彼の噂は単なる噂ではなく、真実だったんだ。
身体を許した途端、彼の本性が露わになった。
乱暴なセックスに少しでも抗ったら、
『お前みたいな不感症女が文句いってんじゃねえよ。俺が相手してやってんだ、ありがたく思えっつーの。言われた通り、黙って足だけ開いてたらいーんだよ』
そう罵倒され、嘲笑され、言い返したら殴られた。
でも、身体を許すまでは、不器用ながらも彼は優しかったんだ。
それなのに、セックスをした途端、私が不感症だと罵って、力尽くで、暴言で、私をねじ伏せようとしてきた。
いっぱい泣いた。
彼とセックスして感じないわけじゃなかったけど、それでも相手が満足してくれるほどではなかったんだと落胆した。
別れたいって思ったけど、彼からは逃げられなくて。
出口のない迷路に迷い込んだみたいに、不安だけが私の中で膨らんでいって、毎日がすごく辛かった。
そんな時、私に力を貸してくれたのが浩紀だった。
ホテルの前で「別れるからもうしない」と言ってわざと彼を怒らせ、私に暴力を振るった時、タイミング良く警察が現れた。浩紀が事前に呼んでくれていたんだ。
彼の父親は代議士だったから、警察沙汰になってしまった息子を隠すようにして転校させた。
私の前から彼が消えて、ホッとした。
それから私は浩紀と共に行動するようになった。自然の流れで、私は浩紀と付き合った。それは、身体の関係を持つこともなく、ほんの少しの間だけだったんだけど。
浩紀の傍は、居心地が良かった。でも、なにか違うような気がした。
恋や愛とは違う、彼に抱く感情は「友情」だということに気づき、私はそれを浩紀に伝えた。
浩紀は言った。
『やっぱそうかー。いいよ、別れようって言われる気ィしてたし。これからは、前みたいに親友に戻るってことだから』
苦い笑みを浮かべながら、浩紀は別れを受け入れてくれた。
もう彼の傍にいるつもりはなかったから、私は意図的に遠ざかっていった。
そんな私に浩紀は怒った。『親友なのに、なんで離れるんだ』って。
それから彼と私の関係は、『恋人』ではなく元通り『親友』に戻ったんだ。
浩紀がくれる優しい言葉、好意に、私は甘えてしまっていたんだと思う。
そうして、お互い別の人と恋をして、付き合って、恋愛相談したりして、今に至るわけなんだけど。
なぜか私が付き合う男達は、ことごとくダメ男ばかりだった。
DV男、浮気性、借金まみれ、人に言えないようなヘンな性癖を持つ男、etc.
真剣に相談する度、浩紀に鼻で嗤われた。
『お前は典型的なダメンズウォーカーだ』
そう言って。
彼の言葉に反論できなかった。私は何故か欠けた男に惹かれてしまう。弱さや脆さを抱えた男。私が支えてあげたいって思ってしまうんだ。誠実で、何でも出来る完璧な男には惹かれない。だから、誠実を絵に描いたような浩紀に惹かれなかったのかな、なんて思う。女の子達が憧れる男には、私、ちっとも心が揺らがないんだ。
で、最後には、付き合った男に手酷い裏切りを受けて別れるか、犯罪紛いのことをされて強制的に別れさせられるか。
私の恋愛遍歴は、ダメ男ばかりを延々渡り歩く、『ダメンズウォーカー』そのものだったのかもしれない。
今まで浩紀に言われる度、そんなことはないって反論してたんだけど、過去を思い返してみて、彼の言葉通りじゃないかと愕然とした。
シャワーのコックをひねり、長い髪から滴る水が足元へと落ちてゆく様をじっと眺める。
今までは、彼氏になった男達に、もっと好きになってもらおうと我慢ばかりしていた。
素の自分を隠し、相手の言うがまま望むままに、人形のように大人しく、暴言や暴力にも耐えてきた。
でも、鷹城さんには、思いっきり素の自分でいることに気付く。
素の私を見ても、鷹城さんは私をいらないと口にしなかった。
今までのように、人形みたいに口答えせずただ作り物の笑顔だけ浮かべとけ、なんて言わなかった。
それが酷く嬉しくて。
でも、一緒に住んでるのに、そういう約束だからって手を出してもこない。
今までの男は、すぐに私を抱いたのに。
そのことに寂しいとか考えてしまう自分は、浅ましくてイヤだ。
私は頭をぶるっと振るって、浴室から出た。
タオルを巻いて鏡に映った自分を見る。
「……ヒドい顔」
連日の寝不足でクマができてるし。
なんか全身から薄幸オーラが出てる気がする。
長い髪から滴がポタポタと垂れている様が、心霊的な何かを連想させるほどの不幸っぷり。
刹那、鏡に映った私の背後に、いきなり鷹城さんが映り込んだ。
「ぎゃああっ」
咄嗟に振り返ったら、扉を開けて呆然と立ち竦む鷹城さん。
「……失礼」
そう言って静かに扉を閉められる。
リアル鷹城さん!?
今、本物の幽霊的な何かを見たかと思った!!
良かった真っ裸じゃなくて!
タオル巻いてて良かった!!
バクバクと太鼓のように鳴る胸を押さえて、はーっと息をつく。
うぅ、恥ずかしい恥ずかしい……。
思わずその場にしゃがみ込む。
しばらくして、心臓の鼓動が少しだけ落ち着きを取り戻したことを確認すると、着替えなきゃとフラつく足で立ち上がる。
再び振り返って鏡を見たら、そこには眉をハの字に垂らし顔を真っ赤にした私が、迷子になった子供のように所在なげな表情で映り込んでいた。