明日、嫁に行きます!



 週明け、いつも通り大学へ行った私は、掲示板に貼られた休講連絡に目が止まった。

「あ、このあとの講義、2つも休みになってる……」

 せっかく大学まで足を運んだのにそれはないだろうと唇を尖らせたが、ぷらぷらと構内を歩いているうちに、せっかく時間が出きたんだし自宅へ帰ろうと思い立つ。

「お母さんにも相談したいし……色々と」

 まあ、主に鷹城さんのことなんだけど。きっと、お母さんなら良い助言をくれそうな気がする。あの人恋愛経験豊富そうだし。

 ――――よし、帰ろう!

 そう決めたら、少しだけ心が軽くなった気がした。
 私は大学の構内から出ると母へ連絡し、揚々とした足取りで自宅へと向かった。





「あら、寧音ちゃん久しぶり。そっちはどう?」

 玄関先でにっこりと微笑む母に迎えられた私は、思わずジーンとしてしまう。そんなに長い間離れていたわけではなかったんだけど、家にいるだけで無条件にホッとする。

「うん。ちゃんと鷹城さんのお世話してるよ」

「あの人、どう?」

「なんかスゴイ何でも出来そうに見えるけど、実はダメダメな人なの」

 それが面白いんだと吹き出した。

「まあ、貴女の好みにピッタリじゃないの」

 お母さんクスクス笑いながらそんなことを言う。
 浩紀や徹くんだけじゃなく母にとっても私って、ダメンズウォーカーな認識だったのかと、少しショックだ。

「なんかさあ、ほっとけないって言うか目が離せないって言うか。そばにいると色んな意味でドキドキするし気になるし……今まで感じたことない感情なんだ。ハッキリ言って戸惑ってる。どうしていいか分かんない」

 なんだろこれ? と、素直に心の内を吐露する。するとお母さん、

「その気持ちの答えがわからないなんて、貴女はバカね。それは、寧音が鷹城さんのこと好きになったってことよ」

 きっぱりと言い切った。

「そう、なのかな?」

 そんな気がしてたんだけども。でも、はっきり肯定するのも恥ずかしくて。もぞもぞと落ち着かなくなる私に、お母さんはクスリと笑った。

「私とお父さんの時は、出逢ってすぐに恋に堕ちたわよ」

 イタズラな顔をして、お母さんは恋に堕ちた経緯を話し始めた。

「お父さんったら、喫茶店に入ってきた私を見てね、呑んでたコーヒーを口からダ――って零したの。真っ赤な顔で私をガン見しながら。私に一目惚れしてしまったのね、可愛い人。面白かったから、お父さんのことじっと見下ろしてたの。そうしたら、ハムスターみたいにワタワタしだしてコーヒーひっくり返した挙げ句、慌ててそれを拭こうとして立ち上がった拍子に滑って転んじゃってね。ふふっ、私よりもずっと年上なのに、見た目は普通のおじさんなのに、あんなに素直で可愛らしい反応するなんて、反則よね? ……ゾクゾクしちゃった」

 ――――で、私はお父さんのことを好きになったの。

 うふふ、と口に手を当てて艶やかに微笑を浮かべる母の、「好き」ポイントがいまいち分からない。

「あー、ゾクゾク? それが恋に堕ちたエピソード? ただの間抜けた失敗談じゃ、……はは、そーなんだー」

 お父さんの悪口言ったわね? と、お母さんに睨まれて、慌てて言い掛けた言葉を飲み込んだ。

 でもお母さん、共感できる部分が全くないんだけど。確かにお父さんはドジッ子キャラだけど。それがお母さんのツボなんだ?

 やっぱりよくわかんない……。

 私は「はははっ」と気のない笑いが口から零れた。

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