明日、嫁に行きます!
「……貴女が……総一郎さんを誘惑したの?」
「……へ?」
突然の驚くべき問いに、頭の中が真っ白になる。思わず間の抜けた声が出てしまった。
「貴女は誰!? 何故総一郎さんに腕を掴まれているの!」
いや、彼が私の腕を掴んでいるのは、単に私が逃走しないようにだと思います。単純に強制連行される途中ってだけなんですが。
しかも誘惑って。
私が誘惑したんじゃなく、誘惑されそうで真面目に困ってるのは、実は私の方なんです。
……今この状況で、それを口にする勇気はない。なので、凄まじいまでの怒気を向けてくる彼女に、言うべき言葉が見つからない私は、へらりと引き攣り笑いで誤魔化した。
「彼女は関係ない。貴女のお父上も、二度と僕に近づくなと言ったはず。何故理解できないのか」
呆れ顔で、わざとらしいまでの溜息を吐く。
そんな鷹城さんの姿を見て、彼に何を言っても無駄と分かったのか、矛先は鷹城さんに寄り添う(ように見えるに違いない)私に向けられた。
「貴女が……わたくしから総一郎さんを奪ったの……」
「ちち違います! わ、私は鷹城さんのお手伝いで……ただのバイトですっ!」
嫉妬の炎に焼かれた女は怖い。特に、普段大人しい女性が怒り狂ったら手に負えないものだ。
だから、必死に怒りを逸らそうとするんだけど。
「……うそだわ。とても親しげに見えるもの」
「こんな人親しくもなんともない、ただの通りすがり、正真正銘真っ赤な他人です!!」
これ以上ないほどに力強く言い放つ。
疑いの目で見られても、それ以上の答えなんて言えない。
借金のカタに妻になれって、偽装結婚持ちかけられてます。
あ、それってもしかして、貴女を諦めさせるためのものなのかな? なんかしつこそうだもんね、高見沢さん。
なんて言えない。言ったが最後、瞬殺される。
それなのに鷹城さん、片眉を不機嫌に跳ね上げさせた、完全に機嫌を損ねた顔を私に向けてくる。
いい根性してやがんな、てめえ。って顔してる。
私の顔に浮かぶ引き攣り笑いがさらに引き攣り、終いには泣き笑いになる。
鷹城さんは邪悪で不穏な笑顔を浮かべながら、背後に隠れる私を自分の隣へと引きずり出して、ガシッと腕を回してきた。
「実は、彼女は僕の婚約者。妻になる人なのです」
……やりやがりました、この男。
火に油を注いでおいて、ナニその満面な笑顔。
一瞬意識が遠くなったわ、バカヤロー。
埴輪な顔で固まる私に、鷹城さんは『ざまあみろ』的な笑みを浮かべて見下ろしてくる。
……この男に惹かれてるかもとか、気の迷いでした。こんな男、願い下げだっ!!
尊大な態度で私を見下ろす男に、死ねこの野郎っ! と、涙混じりに睨みあげた。