明日、嫁に行きます!
「はははっ! 寧音ちゃん面白すぎ! 耳まで真っ赤だし! それを隠せるとか思ってるとこ、超可愛いっ」
実際、超絶に可愛らしいアンタにだけは言われたくないわ。
むっつりと徹くんを睨んでやる。
「……寧音。そんな可愛らしい顔を、他の男になど見せてはいけない」
今度は鷹城さんの非難の声に、「は?」となる。
「余計な男まで煽ってしまう」
『余計な』の部分は、射るような強い視線を徹くんへと向けながら、ボソリと零す。
「えー。別にしゃちょーの女捕ろうなんて命知らずなこと、オレしないしー」
鷹城さんの鋭い視線をさらりと流しながら、徹くんはそんなことを言う。
社長の女って。
それは私のことか。そんな風に見えているのか。
他の社員さんにもそんな風に思われてたらどうしよう……。
そういえば、以前女子トイレに行った時、秘書課のお姉様方に睨まれたことがある。あれは、私が社長の女って誤解されていたから、牽制されたんだろうか。そう思って愕然とする。
「私はただのバイトなのに……」
「誰もそんな風に思ってないよ。だって、しゃちょーが自分の婚約者だって吹聴してるし」
そのセリフに、私は光の速さで鷹城さんを振り返る。
……ニヤリと腹黒い笑みを浮かべてやがります、この男。
やっぱり原因はこの男か!
「なんでそんな余計なこと言うかな!?」
私を体の良い女除けに使ってるんじゃないのか。高見沢さんのことといい、激しくそんな気がしてきた。
「真実ですから」
問答無用で切り捨てられる。
この男、まさか外堀を固めてジワジワと私を袋小路に追い詰めるつもりなのか。
……そうなのか!?
――――やっぱりこの男、怖すぎる!
「寧音、この書類に目を通して下さい。あとコピー30部頼みます」
話は終わりとばかりに仕事の話をされて、ポカンとしてしまう。
仕事の話をされたら、雇われた身としてはなにも言えなくなるじゃないか。文句の一つも言ってやろうと思ったのに。
口に出せない文句の数々を心の中でぶうぶう垂れながら、釈然としない面持ちで、私は鷹城さんから書類を受け取った。