明日、嫁に行きます!

「大丈夫ですか!?」

「……ごめんなさいね」

 申し訳なさそうな顔をするお婆さんを支えながら、椅子が並べてあった一角へと連れて行く。
 そして、お婆さんを座らせてあげた。

「どこか怪我してないですか?」

 沈痛な面持ちのお婆さんに、私は心配になって尋ねてみる。

「ありがとう、お嬢さん。今日はおめでたい日だから、張り切って来てみたんだけど、やっぱりお婆さんには辛かったかしらね」

 穏やかな、けれど、切ない笑みがお婆さんの顔に浮かぶのをみて、胸が掴まれたようにギュッとなる。

「お婆さんが無事で良かった……。それにしても! さっきの女の人、謝りもしなかった! 許せないっ」

 悔しかった。
 お婆さんが、仕方ないことなんだと諦めてしまって見えたから、余計にそう思う。
 私はギリッと唇を噛み締めた。

「仕方ないわ。私みたいなこんなお婆さん、ここにはいないもの」

 ――――私のために怒ってくれてありがとう。

 そんなふうに言われてしまって、また胸に痛みが走る。切ない痛みを訴える胸を、握った拳で押さえつけた。

「……みんな自分のことばっかり。他人のことを気にしてるふうに見せかけて、ほんとは自分のことしか考えてないんだ」

 つい本音が口を吐く。
 女の人が走って行った先を見て、やっぱりと落胆した。
 視線の先には、さっきロビーで見かけた、知的で冷ややかな雰囲気の眼鏡紳士の姿があって。
 彼を取り囲む華やいだ輪の中に、その女性はいた。

 やっぱり、自分のことしか考えてない人ばかり。

 うんざりしながら、そう思った。
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