明日、嫁に行きます!
 なんでもない風を装い、訝しむ鷹城さんの目から逃げるようにして部屋に引き籠もった私は、取りだした携帯を延々睨み続けていた。

 サラに、聞いてみようか。昔、彼に出逢ったことがあるかどうか。

 ……でも、その答えが、イエスだったら?

 私はサラに鷹城さんを譲れるの? 私にそれが出来るの?
 何度も繰り返した自問自答。答えを見出すことが出来なくて、眸に水の膜が張り始める。
 震える手で携帯を握りしめた。
 なんでもっと早く、彼に天使像のことを聞かなかったのか。話してくれなかったのか。八つ当たりのようにそんなことを思ってしまう。
 どうしてもっと早く、その事実を知ることが出来なかったのか。
 こんなにも、惹かれてしまう前に。
 もうこれ以上、前に進むことも、後ろに下がることも出来ない今の状況に、ただ、呆然と立ち竦むことしか出来なくて。
 でも、知ってしまったからには、ここでじっとしていてはいけない。
 握りしめた手を開く。画面に表示された数字の羅列は、サラの携帯番号。

 ――――確かめなければ。鷹城さんが昔出逢った少女は、サラで間違いないのか。

 苦痛を誤魔化すように再び携帯を強く握りしめ、そして、ゆっくりと手のひらを開く。
 ずっと握りしめていたせいで温くなった私の携帯。
 鷹城さんを救った少女がサラだと知ったところで、それを彼に告げられるかなんて、まだわからない。決心はついていない。迷いは振り切れてなどいなかった。
 でも。
 一歩も動けない状態で、停滞したままなんてイヤだった。
 想いはまだ混迷を極めているけれど、出来うるならば。
 正々堂々、真実を告げて、真っ向から鷹城さんに勝負を挑みたい。
 想いをぶつけて、例え、玉砕してしまったとしても。
 だって、私、まだ何もしていない。
 好きだと告げてさえない。何もしていないのに諦めてしまうなんて、昔の自分を見てるみたいでイヤだった。
 だから。

 私は、意を決して通話ボタンを押した。

 サラに真実を聞こう。
 怯えそうになる心を叱咤し、私は俯く顔を前へと向けた。

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