明日、嫁に行きます!
9
その日、私は鷹城さんに抱かれた。
今まで誰かに抱いて欲しいなんて思ったことはなかった。
こんなにも、抱きしめられたいと願ったこともなかった。
鷹城さんだけだった。自分から望んだ男は。
灼熱の焔を内に秘めた愛しい男に抱きしめられて、私は無性に泣きたくなった。
「……寧音。貴女は今、何を考えているんですか」
私はシーツを握りしめていた指を放し、掠れた声でそう尋ねる彼の首へと縋るように腕を回した。
「私、こんなにも……貴方のこと、好きになる、なんて……思っても、みなかった」
吐息に混じる喘ぎと共に、口からは途切れがちな言葉が紡がれる。
私を見下ろす鷹城さんをグイッと引き寄せ、汗ばんだ彼の首筋に唇を這わせた。そうして、私に施した同じ刻印を彼にも刻んでやる。
肌を慄わせるくくっと愉しげな笑み声。鼻先を掠める鮮烈なまでの雄の香り。酔ったようにクラりとした。
「僕にとって、寧音は奇跡です。必ず自分のものにすると誓いました。なり振り構ってなどいられなかった」
鷹城さんの顔に浮かぶ微苦笑。欲に掠れた彼の声に、痺れた脳が彼を離したくないと渇望する。
けれど。
そう思うだけで、じわりと視界に水の膜が張り出す。
――――彼が言う『奇跡』。
それはきっと、貴方の勘違いを逆手に取った『偽りの奇跡』。今、私がついている『嘘』。
……ごめんなさい。
潤み始めた両眼に、瞼を下ろして蓋をする。切なさを殺すために唇を薄く開き、彼に口付けを強請《ねだ》る。
目尻にたまった涙が雫となって、乱れたシーツへと伝い落ちてゆく。そして、わずかに残った理性と共に、想いの雫は消えてしまった。