明日、嫁に行きます!
「私には孫がひとりいてね」
唐突にお婆さんが話し出したので、私は慌てて視線を戻した。
「孫は男の子なんだけど、小さな頃からとても綺麗な子だったの。ひっきりなしに女の子が寄ってきたわ」
自慢の孫なの。
お婆さんは、愛しさを滲ませた笑顔でそう言った。
「外見と、うちが少しばかり資産家だったせいか、集まってくる女性達はそういう上辺だけしかみない人ばかりだったわ」
誰も孫の内面まで見ようとはしてくれなかった。
お婆さんは悲しそうにそう語る。
私は共感できる話だったので、知らず、夢中になって耳を傾けていた。
「そうこうしているうちに、可哀想に。孫は、今ではすっかり女性不信になってしまったの」
お婆さんは苦笑しながら、頬に手を当ててため息を吐く。
そして、その顔に憐憫《れんびん》の情を浮かべながら、
「お嬢さんも孫と少し似てるわ。貴女はとても綺麗な容姿をしているわね。けれど、そのことがお嬢さんにとって、少なからず負担になっているのかしら」
核心を突かれて、どきっとした。
「だから、そんな言葉が出てきてしまうのでしょう? 他人は皆自分のことばかり。誰も私の心の声までは聞こうとはしてくれないって。違うかしら?」
涙が出そうになった。
その通りだったから。
潤みだす視界を誤魔化そうと、私は瞬きを繰り返した。
「その様子だと、貴女は自分の美貌を生かして利用しようとは思わないのでしょうね。でもね、本当の貴女を愛してくれる人が、きっと現れるわ。……すぐに」
優しい言葉に、冷え切った心が温かくなってゆく。
でも、最後に聞こえた空耳かと思うほどの小さな言葉。
すぐにってどういうことなんだろう。
淑やかに微笑むお婆さんに疑問の答えを聞こうとしたとき、いきなり頭上から声が降ってきた。